「お盆」と「彼岸」に、仏前供養としてお供えする精進料理。そのお下がりとして、わたしたちも精進料理をいただきます。
「精進」とは、仏の教えによって仏道修行に努めるという意味です。肉類などの美食を避けて、野菜・豆類などを中心にした粗食を食することも、修行のひとつと考えられているのです。
菜食で不足しがちなタンパク質を豊富に含むこうや豆腐は、長期保存も可能で、精進料理の具材として珍重されています。こうや豆腐の入った精進料理を、ご先祖様に感謝しつついただきましょう。
◆お盆
盂蘭盆(うらぼん)は、死者の苦しみを救う行事で、7月15日に行われます。飛鳥時代、斉明天皇(657年)に始まったとされています。先祖供養の行事として行われるお盆は、土地によって、7月盆(新暦)・8月盆(旧暦)に分かれています。13日にお迎え火を焚き、14、15日が精霊祭、16日が送り火と4日間続きます。
仏前へのお供え物は、果物や野菜、盆料理のほか、麦の収穫が済んだ後の祖霊祭という意味から、冷麦やうどんなどの麦を材料としたものが供えられる地方もあります。また、胡瓜や茄子に、爪楊枝や割り箸を刺して、馬や牛に見立てた精霊馬を供えます。胡瓜は俊馬。あの世から早く戻って来てほしいという気持ち、茄子は牛。あの世へゆっくりと帰るようにという意味が込められています。
お供えされる盆料理は、精進料理です。こうや豆腐が、煮しめなどで定番素材として入っています。家族は、ご先祖様に健康や安全を感謝しつつ、盆料理をお相伴します。ご先祖様の霊が戻ってきて、家族と一緒に過ごし、また、あの世に帰っていく――改めて血縁の「絆」を感じる大切な行事といえます。ところでお盆は、夏バテ気味の時期でもあります。栄養豊富なこうや豆腐の入った盆料理をいただくのは日本人の知恵としても理にかなっているといえましょう。
◆彼岸
「彼岸」とは、もともと仏教の言葉で、煩悩を脱した悟りの境地を意味します。
春分の日、秋分の日は、中国の二十四節気のひとつで、太陽がほとんど赤道近くに位置するので、昼夜の長さがほぼ同じになります。仏教では、この日を中心として、ご先祖様の霊の力により豊作を祈る法会「彼岸会(ひがんえ)」を行っています。金剛般若経の中に「生死の世界を此岸(しがん)、涅槃の世界を彼岸(ひがん)と称し、その間を流れる煩悩の世界を中流とす」とあります。これに由来して、春分・秋分の日を彼岸の中日と称し、この前後3日間、計7日間を彼岸としています。
彼岸の中日が、ちょうど太陽が真西に没するとされる日なので、西方浄土の仏説と結びついて先祖供養の日とされるにいたりました。現在は、ご先祖様を敬い、亡くなった人を偲ぶ日となっており、おはぎや団子を仏壇に供え、ご先祖様の墓参りをします。
彼岸の日にいただく料理は、ご先祖様へ五穀豊穣の祈りと感謝の想いを込めた精進料理です。「暑さ寒さも彼岸まで」という言葉があるように、彼岸は季節の変化を身体で感じ取る時期でもあります。旬の春野菜、秋野菜、そしてこうや豆腐が入った精進料理をいただくことは、栄養のバランスもよく、健康増進の意味も大いにありそうです。
こうや豆腐発祥の地といわれる高野山。そのお膝元の高野町内各地では、毎月21日※に弘法大師を信仰する人々が集まる「大師講」が催されます。同町杖ケ藪地区長の新家秀近さんに、大師講についてお話を伺いました。 ※弘法大師が入定した日(即身成仏を遂げた日) が、3月21日であることにちなんだとされる。 大師講が終わると、こうや豆腐などのお供え物はお下がりとして、皆で分けて家に持ち帰るのだそうです。 (取材協力:高野町) |